主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 38
開催地: 京都府
開催日: 2022/09/16 - 2022/09/19
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霊長類は多様な物理的・社会的な環境に適応するため、反射などの生得的な能力だけでなく、生後の学習によって生存に必要な能力を獲得する必要がある。個体内学習では、認知発達にともない、経験や強化、アフォーダンス、試行錯誤などにより、徐々に学習が進む。社会的学習では、他個体をモデルとして参照することで学習が促進され、刺激強調などの比較的低次元の効果から、新奇な動作でも細部まで再現できる真の模倣まで、いくつかのレベルが存在する。また、霊長類は両手で物を把握し、多様な対象操作をおこなうという共通特徴があり、対象操作を認知発達の指標とすることで、種間比較や、発達・学習にともなう変化の定量化ができる。一部の霊長類では、物同士を関連付ける定位操作と、それを基盤とした道具使用が出現する。本発表では、おもに飼育下の霊長類を対象とした認知発達研究の中で、特に対象操作や道具使用を指標とした研究に着目して、レビューをおこなった。チンパンジーは、積木の物理的な特性に応じて形の異なる積木をつむ課題では、個体内学習によって適切な対象操作を獲得した。一方で、社会的学習が必要となる、他者モデルの色の順番を模倣して積木をつむ課題では、ヒトの子どもの優位性が示された。チンパンジーがナッツ割りなどの複雑な道具使用を学習する場面では、子どもへの社会的寛容性を基盤として、エミュレーションと個体内学習を組み合わせたような形で、学習が進むことが想定される。学習のターゲットとなる行動の複雑性が増加すると、必要な社会的学習のレベルも異なる可能性がある。さらにヒトでは、真の模倣によって細部を再現し、言語を介した積極的な教示がおこなわれることで、より複雑な行動でも効率的に世代間伝播していることが示唆される。