霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
ニホンザルにおける母親から1歳児への攻撃がもたらす利益
根地嶋 勇人上野 将敬
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p. 29

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抄録

マカク属を含む多くの霊長類では、離乳期に子が乳首に接触して授乳を試みた際に、母親が拒否する授乳拒否が見られる。授乳拒否には子への投資量を減少させる効果や、母親の行動が阻害されないタイミングで子に授乳を行うよう調節する効果があると考えられている。このような授乳拒否には攻撃が伴うことがあるが、なぜ授乳拒否に攻撃が伴うのかについては検討されていない。母親から子への攻撃には、子が死亡や怪我をするリスクが伴う。攻撃が伴う際には授乳拒否の効果がより強くなり、母親がより大きな利益を得ているのかもしれない。そこで本研究は1.攻撃を伴う拒否は授乳時間を減少させるか、2.母親が授乳中に行いにくい行動は何か、3.攻撃を伴う拒否が生じた後、母親が授乳中に行いにくい行動をより行うことができるかを検討した。調査は2022年6月から9月の間、長野県地獄谷野猿公苑で餌付けされているニホンザル群の母子(18ペア)を対象に行われた。観察は個体追跡法を用い、180時間行われた。調査の結果、1.攻撃を伴う拒否がよく生じるペアほど、観察時間中の授乳頻度が高い傾向にあること、2.授乳時には非授乳時より、母親はセルフグルーミング、子以外の個体へのグルーミング、採食、移動を行いにくいこと、3.授乳拒否に攻撃が伴った場合とそうでない場合では、拒否後1分間において、授乳時に行いにくい、セルフグルーミング、子以外の個体へのグルーミング、採食、移動の発生頻度は変わらないことが明らかとなった。以上の結果から、母親は攻撃を伴う拒否を行うことで、授乳を抑制していない可能性及び、授乳時に行いにくい行動を行えるようになるという利益を得ていないことが示唆された。

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© 2023 日本霊長類学会
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