主催: 日本霊長類学会
会議名: 日本霊長類学会大会
回次: 39
開催地: 兵庫県
開催日: 2023/07/07 - 2023/07/09
p. 36-37
通文化的なヒトの特徴の1つである集団レベルの右利きは、言語との進化的関連性が古くから主張されてきた。しかし、言語を持たないヒト以外の動物にも利き手のような現象があることから、利き手の進化を巡る議論は現在も続いている。非ヒト霊長類を対象とした研究領域では、野生下の情報が極めて少なく、数少ない研究間でも行動指標が異なるため、種間だけでなく種内でさえ直接比較が困難であるという課題がある。本研究では、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)を対象に、アフリカショウガ(Zingiberaceae: 以下、ショウガ)の採食行動において使う手に左右性があるかどうかを検討した。この採食行動では、片手で茎を握り地面からショウガを引き抜く「片手操作」と、引き抜いたショウガを両手で持ち、片方の手指を細かく動かして髄を取り出す「両手操作」の2つの操作が行われる。21頭を対象に4293例の採食を観察し、各操作を左右どちらの手で行ったかを記録した。その結果、片手操作では13頭は右手、3頭は左手を使うことが有意に多かったが、5頭は引き抜く手に偏りはなかった。一方、両手操作では15頭は右手、6頭は左手を使って細かい動作を行い、全個体で有意な偏りが見られた。使う手の偏りは片手操作より両手操作の方が顕著に強かった。さらに、両手操作では集団レベルで右手を使う個体数が有意に多かった。本研究では、より複雑な操作で個体レベルの左右性が現れやすいという、従来の知見と一致する結果が得られた。さらに、ヒト特有とされてきた集団レベルの右利きは言語の獲得以前の、両手協調操作に進化的基盤ある可能性が示唆された。ショウガ採食行動はアフリカ大型類人猿の複数の調査地で記録されているため、同じ行動を対象とした左右性発現の種内・種間比較を可能とし、利き手の進化的起源を理解するうえで重要な行動指標になることが期待される。