霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
会議情報

口頭発表
野生チンパンジーの採食品目におけるリベリア共和国パラとギニア共和国ボッソウとの行動差
大橋 岳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 36

詳細
抄録

今回の発表では、ギニア共和国ボッソウにおいて野生チンパンジーの採食品目として記録のないものをリベリア共和国パラのチンパンジーが食べた例を報告する。ボッソウのチンパンジーは国境を越えて遊動することも確認されていることから、リベリアへも広域にチンパンジーの調査を展開しており、とくに2012年以降、ボッソウから58kmほど離れたパラを拠点に調査を実施してきた。パラのチンパンジーはボッソウほど人付けできていないものの直接観察もすこしずつ可能になってきており、踏み跡をたどることで、採食品目を確認できるようになってきた。そのようななか、ボッソウでは複数回捕まえたものの肉として消費されなかったニシキノボリハイラックスを、パラのチンパンジー複数個体が食べる様子を2020年2月に記録し、2023年2月にも、食べた後に地面に残された足先や内臓を確認した。2022年8月にはパイナップルの葉の付け根の食痕、2023年3月には籐の葉の付け根部分の食痕を確認した。いずれもボッソウに存在する種だが、ボッソウでは同じ種の同じ部位を食べたという記録はない。植物のように、チンパンジーにとって比較的日常的に接する種であっても、それを食べ物とみなすかどうかという点は、生まれながらにして同じというわけではないようだ。グループ内の他個体から社会的に影響を受けて、食物の知識を獲得している可能性があり、所属している集団の違いが、食物品目の違いに現れているのかもしれない。

著者関連情報
© 2023 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top