霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
高所からの墜落により突然アニマシーを消失した野生チンパンジーのコドモに対する他個体の反応
島田 将喜矢野 航
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p. 37-38

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抄録

マハレ山塊国立公園に生息する野生チンパンジー(Pan troglodytes)M集団のVolta(VO)と名付けられたコドモオスが樹上約7mから墜落し、一時的に正常な行動がとれない状態に陥った。VOは墜落により重度の脳震盪および鼻腔内鼻骨骨折を患ったと推定された。VOは墜落直後の10分程度は意識障害の状態だったものの徐々に回復してゆくプロセスにあったと推測された。近接個体がVOに対して向けた行動を記録し、意識を失ったcollapsed個体や死後間もない死体に対する周囲の個体の行動に関する過去の報告と比較した。当日観察された26個体中14個体がVOに近接し、中でもオトナオスが多く長く近接した。近接個体によるVOの近傍での行動は、滞在、覗き込み、接触、臭いを嗅ぎ、毛づくろいといった配慮行動だけでなく、乱暴な扱い、ディスプレイといった攻撃的な行動も見られ、全体として意識を失った個体や死体に対する行動と類似していた。一方、それらに対する行動として報告されてこなかった「VOの血液を舐める」行動が複数個体から観察された。チンパンジーたちはVOに近接しさまざまな行動を向け、VOの反応を見ることで、容体が回復途上にあると推論できたと考えられる。しかしパントグラントの発声ができないなど、VOは依然としてアニマシー消失がみられた。オトナオスたちが長時間VOを毛づくろいしたり、VOの移動を待ったりしたのは、依然異常な状態のコドモオスに対するオトナオスたちの寛容性や配慮を示唆している。

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