霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
飼育スンダスローロリスF2世代における樹液選好性の低下と腸内マイクロバイオームの変動
早川 卓志金綱 航平飯島 なつみ
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p. 39

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抄録

小型霊長類の特徴的な食性として樹液食がある。スローロリス類やマーモセット類は、下顎の切歯が特殊化し、樹皮に穴をあけるガウジング行動をおこなう。ガウジング後、しばらくすると出てくる滲出液(樹液)を摂取する。季節によっては採食割合の大部分を占めることから、相当の栄養を樹液に依存している。樹液の主成分は糖タンパクからなる水溶性食物繊維であり、その消化には腸内共生微生物が機能的に貢献しているこうした機能の総体を腸内マイクロバイオームと呼ぶ。一方で飼育下では、野生のような多様な樹種に由来する量的にも豊富な樹液を給餌することは難しい。また飼育効果と呼ばれる様々な要因で、腸内マイクロバイオームは野生のそれと劇的に変化してしまう。本研究では、アラビアガムを毎日給餌している飼育スンダスローロリスを対象に、野生由来、F1世代、F2世代において、アラビアガムの選好性と、腸内マイクロバイオームを比較した。その結果、F2世代では選好性が低下し、プレボテラ科細菌の豊富度が有意に減少していた。このことは、飼育下での世代交代に、樹液選好性の変化と腸内細菌の減少が連関することを意味している。腸内マイクロバイオームごといかに次世代に引き継がせていくかも、今後の希少動物の飼育・繁殖における課題である。

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