霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
わが国に分布するマカクにおける腸管寄生アメーバの感染状況と分離株の遺伝的多型性
橘 裕司
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p. 39

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抄録

サル類における腸管寄生アメーバの感染状況を明らかにすることは、サルの健康だけでなく、人獣共通感染症対策の観点からも重要である。Entamoeba nuttalliはマカク類を固有宿主とし、赤痢アメーバに最も近縁な腸管寄生アメーバである。ニホンザルにおいても、これまでに飼育下の個体からE. nuttalliを分離しているが、野生のニホンザルにおける腸管寄生アメーバの感染実態は十分に解明されていなかった。演者らは、これまでに青森県脇野沢の北限のニホンザルから鹿児島県屋久島のヤクシマザルまで、国内20カ所以上の地域に分布するサル群について糞便を採取し、各種腸管寄生アメーバの感染状況をPCR法によって調べた。また、E. nuttalliを分離培養し、遺伝子型の比較解析を行った。腸管寄生アメーバのなかでは、E. chattoniの寄生率が最も高く、全ての地域のサルから検出された。次いで、大腸アメーバが広範囲に検出された。一方、E. disparの感染はまれであり、赤痢アメーバやE. moshkovskiiは全く検出されなかった。E. nuttalliは本州に分布する野生ニホンザルからのみ検出され、四国や九州の野生ザルからは検出されなかった。また、遺伝子型解析では、ニホンザル由来のE. nuttalliはアカゲザル由来のE. nuttalliよりも多様性が大きいことが明らかになった。(共同研究者・研究協力者:小林正規、柳哲雄、松岡史朗、辻大和、大井徹、赤座久明、鈴村崇文、川本芳、岡本宗裕、平井啓久、松林清明他)

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