霊長類研究 Supplement
第39回日本霊長類学会大会
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口頭発表
テングザルの夜間行動
松田 一希BÖSCH JaniqueMCGROSKY AmandaTUUGA AugustineTANGAH JosephCLAUSS Marcus
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p. 42

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抄録

昼行性霊長類にとって夜間は、ただ眠るだけの採食や社会行動に有効活用できない時間だと考えられてきた。しかし、夜間にも消化活動は続けられており、より捕食の危機に曝され易いのも夜間である。時間をどう利用するかは、野生動物の活動の重要な制限要因であり、生涯の半分を過ごす泊まり場での時間を有効に利用することは、動物の適応度に大きく影響する。テングザルは葉食に特化し、前胃発酵消化を行う。そのため、消化に要する長い時間は活動制限要因であり、夜間はその消化のための有効な時間だと考えられる。本種では、低頻度だが霊長類初の反芻行動が報告されている。本行動の大半は早朝に観察されており、むしろ夜間に本行動を頻発し、消化効率を高めているかもしれない。そこで、テングザルで観察される反芻行動の適応的意義を探るため、夜間の行動観察を実施した。マレーシア・サバ州キナバタンガン川下流域の野生テングザルを対象に、35夜、計251時間の行動を赤外線ビデオで記録・分析した。その結果、テングザルは夜間に頻繁に起きており、夜間に観察した時間の約3分の1(27.4±24.6%)しか眠っていなかった。一方で、予想に反して、反芻行動は昼間の観察時よりも頻繁に生じているようには見えず、夜間の活動時間に占める割合もわずかであった。夜間に「頻繁に起きる」という適応戦略を、消化や捕食者回避の観点から議論する。

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© 2023 日本霊長類学会
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