抄録
ジェフロイクモザルは移動の補助などに使われる把握性のある長い尾を持つ。このサルの、移動や静止中に体を支える尾のはたらきに着目し、側方性のある手とは違って対になっていない尾の側方性について調べることが本研究の目的である。先行研究では、尾で餌を取る際には尾の使い方に側方性があることが観察されている(Laska, 1997)。本研究では尾が体を支える際にも側方性を持ち、個体によって尾の使い方に左右差があるという仮説を立てた。調査は日本モンキーセンターで飼育されている個体を対象に、2023年12月から2024年4月までの期間に5日間実施した。観察個体は南米館のレンゲ(19歳♀)ダニエル(27歳♂)チロ(25歳♀)と、モンキースクランブルのレイコ(39歳♀)チロ(15歳♀)レイチェル(16歳♂)レーズン(5歳♂)の7個体である。行動サンプリングを用いて、尾が物体を一周している状態を「尾を巻きつけている」として尾の巻きつきの方向と傾きの左右(L・R)を記録した。南米館ではレンゲは巻きつき方も傾きもR、チロでは巻きつき方はR、傾きはLの回数が多かった。ダニエルはどちらの項目もRとLにあまり差が見られなかった。モンキースクランブルでは4個体全てが巻き付き方、傾きともにLの回数が多い結果となった。両側二項検定(有意水準p<0.01)を行い、巻きつきではチロ、レンゲ、傾きではレンゲがRに優意性ありとなった。側方性をもたない個体がいた理由として、個体と物体との位置関係が巻きつきや傾きの左右を決めてしまう場合があることや、尾を正確に動かす必要がある動作では側方性を持つが、正確に動かす必要のない動作では持たないことが考えられる。またモンキースクランブルの個体は屋外の広い環境で飼育されているため尾を巻きつける機会が少なく、サンプル数が不足していたことが考えられる。今後は、尾の巻きつき方が左右どちらにもなる可能性のある状況を抽出し、再度検証したい。