抄録
ジェフロイクモザルは、野生下では離合集散型で成熟したメスが集団を出ていくメス分散型の父系社会を形成する。本研究の目的は、子の成長に伴う集団内個体関係の変化について調べることである。私たちは、2頭の子供の間でもそれぞれ母との関係に違いがある、また、幼いレーズンが成長することでグループ内の関係、特に親子間の行動が変化するという仮説を立てた。
調査は2022年8月から2024年5月までの期間に18日間、計1798分実施した。観察個体は、日本モンキーセンターで飼育されているレイコ(39歳♀)、レイチェル(16歳♀)、チロル(15歳♂)、レーズン(5歳♂)の4個体。レイコはレイチェルとレーズンの母親、チロルはレーズンの父親である。行動サンプリングを用いて、接触、近づく、取っ組み合い、追いかける、ついていくの5種類の行動と個体を記録した。調査の結果、母のレイコと最年少個体のレーズンの接触は計89回と多く、子同士であるレーズンとレイチェルの接触は計7回と少なかった。さらに、レイコ―レーズン間の接触とレイコ―レイチェル間の接触回数の推移は相反する関係であった。また、レーズンが成長するにつれて母子間の接触は減少し、同時期にオス―オス関係であるレーズン―チロル間の敵対的行動が急激に増えた。レーズンと他の個体との間でみられる行動とその変化から、幼いレーズンの親離れが母子間の接触頻度やオス同士の対立といった集団内の関係に大きな変化をもたらしていると推測される。
ジェフロイクモザルは父系社会であるため本来オス同士の対立は稀であるが、今回の観察において敵対的行動が多く見られたのは、外敵がいないという飼育下独自の環境が影響していると考えられる。今後もレーズンが成長することでの関係や行動の変化を継続的に調査していきたい。さらに、他の群れについても調査することで、野生環境と飼育環境における行動の比較も行いたい。