霊長類研究 Supplement
第40回日本霊長類学会大会
会議情報

口頭発表
テナガザル科における内喉頭筋群の3D形態モデルを用いた比較
八神未 千弘西村 剛
著者情報
会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 32

詳細
抄録
テナガザル科は,東南アジアを中心に分布する類人猿の1グループである.テナガザル科には「歌」と呼ばれる,大きく高いピッチの音声を大きく変化させる音声表現がみられる.音声のピッチは,音源をつくる声帯の振動によって決まる.テナガザル科では,声帯を伸長してピッチを調整する内喉頭筋群に,他の霊長類とは異なる特徴がみられると期待される.本研究では,テナガザル科4属を含む霊長類10種の摘出喉頭標本を,マイクロMRIまたはマイクロCTで撮像し,その高精細画像を用いて喉頭軟骨と内喉頭筋の3Dモデルを構築して,形態比較を行った.その結果,輪状甲状筋(CT)と後輪状披裂筋(PCA)に大きな差異がみられた.CTは,輪状軟骨と甲状軟骨をつなぎ,その収縮により甲状軟骨が前方へ傾くことで声帯が伸長する.テナガザルでは,甲状軟骨の下縁および,側板の内外側面や下角の内側面にかけて広く停止していた.一方,他の霊長類のCTは,甲状軟骨の下縁および甲状軟骨下角の内側面に停止しており,ヒトと同様であった.つまり,テナガザルのCTは,他の霊長類よりも非常に長い.PCAは,輪状軟骨と披裂軟骨をつなぎ,その収縮により,披裂軟骨および声帯は後方に引かれる.テナガザルでは,PCAが肥厚し,後方から見ると左右の披裂軟骨間をつなぐ披裂間筋を覆い隠すほどであった.一方,他の霊長類では,ヒトと同様に,PCAの肥厚はなかった.テナガザルにみられたこれらの派生的特徴は,ピッチを大きく変化させるのに適応的であると考えられる.つまり,テナガザルでは,他の霊長類に比べて,長いCTの収縮により,声帯をより長く伸長させることができる.さらに,肥厚したPCAは,CT収縮で前方に引かれる声帯を後方へと力強く固定すると考えられる.以上より,テナガザル科の内喉頭筋群の形態学的特徴は,音声のピッチ変動をともなうソングに適応して進化したと考えられる.
著者関連情報
© 2024 日本霊長類学会

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
前の記事 次の記事
feedback
Top