霊長類研究 Supplement
第40回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
オランウータン浅指屈筋の筋束構成と支配神経について
江村 健児櫻屋 透真平崎 鋭矢薗村 貴弘荒川 高光
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 60

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抄録
霊長類の浅指屈筋の筋束構成には種間差があり、特に第2指、第5指への筋腹の起始に種間差が大きい(Emura et al. 2020, 2023)。しかし大型類人猿の筋束構成については未だ不明な点が多く、ヒト科の系統発生における浅指屈筋の形態変化が十分に考察できていない。そこで本研究では、オランウータン浅指屈筋の筋束構成と神経支配を形態学的に詳細に調査することで、ヒト科における浅指屈筋の形態変化を再検討することを試みた。ボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus)成体メス1体とスマトラオランウータン(Pongo abelii)成体メス1体それぞれの右浅指屈筋を用い、浅指屈筋の起始、停止、筋束構成、支配神経を肉眼解剖学的に精査した。標本は、大型類人猿情報ネットワークを通じ京都大学ヒト行動進化研究センターから貸与を受けた。浅指屈筋は主に内側上顆から起始し、第2指から第5指に停止腱を送った。第2指への筋腹は中間腱を持ち二腹筋の形態を呈し、他の指への筋腹よりも背側に位置した。第5指への筋腹は内側上顆に加え、尺側手根屈筋の筋膜からも一部起始した。これらの筋束構成はこれまでに報告したゴリラやチンパンジーの浅指屈筋に類似していた。第2指への近位筋腹を支配する神経枝は正中神経から分かれ、長掌筋支配枝と共同幹を作った。第2指への遠位筋腹を含め浅指屈筋の他の部分は、正中神経の比較的遠位から分かれる枝に主に支配された。神経支配から、第2指への近位筋腹は長掌筋と近縁であり、他の部分とは由来が異なる可能性が示唆された。オランウータンの第5指への筋腹の起始はゴリラやチンパンジーと同様であったが、ヒトでは第2指と第5指への筋腹が中間腱から起始する(Ohtani 1979; 山田1986)。ヒト科の系統発生の中で、第5指筋腹の起始はヒトとチンパンジーが分かれた後に変化した可能性が考えられた。
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© 2024 日本霊長類学会

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