抄録
【はじめに】室内飼育下カニクイザルの初産の約半数に子育て放棄が認められ、産歴を重ねるにつれて改善されることがわかっている。子育て放棄された子ザルを救うために人工ほ育を試みているが、その中に指しゃぶり行動を示す個体がいることを確認している。ヒトでは指しゃぶりを愛情不足、ストレス、不安といったマイナスの行動として解釈されることもあるが、感情を立て直すための行為、自立のための行為といったプラスの意味に考えられることもある。サルにおける指しゃぶり行動をどのようにとらえれば良いかを考えるために、指しゃぶり行動の発現頻度について調査した。
【方法】医薬基盤・健康・栄養研究所で生まれたカニクイザルを対象に、母親にほ育されている個体100例と人工ほ育中の個体87例で指しゃぶり行動の出現について調査した。観察は1回10分の目視とし各個体2回実施した。観察中に一度でも指しゃぶり行動を認めた個体を「指しゃぶり行動あり」とした。なお、人工ほ育は保温装置を備えた箱の中での2頭飼育としている。
【結果および考察】母親ほ育の子ザルでは100頭中1頭のみ(1.0 %)に指しゃぶり行動の発現を認めた。この個体は139日齢の個体であり母親から離れて行動する時間も多く母親から離れたときに認められた。また、人工ほ育の子ザルでは87頭中74頭(85.1 %)と高頻度に指しゃぶり行動が発現していたが、人工ほ育ザルのすべてに認められるものではなかった。サルの指しゃぶり行動の意味を考えるためには、心理行動学を含む多分野からの解析が必要と考えている。子育てを放棄された子ザルにとって、母親に放棄されたという行為が心理的ストレスとなっているのか否か、感情の立て直しや自立に関連したプラスに解釈できる行動なのかなど、検討すべき課題は多い。