霊長類研究 Supplement
第40回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
冬期の上高地におけるニホンザルとホンドギツネの接近事例の報告
土橋 彩加竹中 將起田島 知之林 浩介池上 知之進松本 卓也
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 74

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抄録
野外環境におけるニホンザルと他種との遭遇事例では、小型哺乳類(例えばムササビ)に対するニホンザルの威嚇・攻撃行動や、捕食者と考えられる他種(例えばイヌやクマタカ)に対するニホンザルの警戒音や逃避行動が報告されている。また、ニホンザルと食物資源競合の関係にある種(例えばニホンジカやイノシシ)に対しては、ニホンザルが攻撃的な反応をほとんど示さないことや、外来種(たとえばヌートリア)に対して複数個体が様子をうかがうことが報告されている。本観察事例のホンドギツネは、ニホンザルの被食事例の報告はないものの、ネズミ・ウサギ類等の小型哺乳類の肉食を中心とした雑食性である。本研究は、ニホンザルとホンドギツネが接近した際の両者の行動を詳細に分析し、両種の種間関係について考察することを目的とする。観察した4事例すべてにおいて、複数頭のニホンザルが警戒音を発しており、警戒音の直後に未成熟個体が地上から樹上へと移動したことが確認された。この反応は、ニホンザルの被食が確認されているイヌ、クマタカ、イヌワシに対するニホンザルの反応の事例に類似している。また、βオスが樹上で警戒音を発するなかで、αオスが警戒音を発さず地上で採食を続ける場面も観察・記録された。一方、観察事例のうち少なくとも3事例では、写真と動画の分析からホンドギツネが同一の個体であると認められた。そのうち1事例では、ホンドギツネがニホンザルの群れの近くを離れる際、地上のニホンザルの糞をくわえて持ち去る行動が観察された。このホンドキツネの行動は、屋久島で報告されたヤクシカのニホンザルの糞食行動に類似している。これらの結果より、ニホンザルの未成熟個体にとってホンドギツネが脅威となる可能性や、食物が少なくなる冬期にホンドギツネがニホンザルの群れに追従している可能性を議論する。会場ではニホンザルと他種との遭遇事例について情報交換を行いたい。
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