抄録
捕食圧にさらされる野生霊長類にとって集団サイズは対捕食者戦略上の重要な変数である。一方、集団サイズの増大は集団内競合の激化や遊動距離の増加を招くため、それらのコストと対捕食者戦略上のメリットのバランスが集団サイズの決定要因のひとつとなっている。また、複数の霊長類種で混群の形成が報告されているが、これには一部の集団内競合の増大を抑制しつつ対捕食者戦略上の集団サイズを増加させられるメリットがあるとされている。本研究ではマレーシア・サバ州のキナバタンガン川支流に生息するミナミブタオザル( Macaca nemestrina)、カニクイザル(Macaca fascicularis)を対象に, 河岸出没場所の共起性を検証した。両種は人為的な給餌が存在する場所では混群の形成と交雑の発生が観察されているものの、野生下での混群形成の報告は稀である。2012年6月から2014年7月の434日間, ボートセンサスを実施し対象種の出現場所および行動を記録した。先行研究(Otani et al., 2020)により両種の出現場所に関連があることが示されたが、今回の分析により強い共起性があることが示された。また両種の遭遇時は他の霊長類種との遭遇時に比べて攻撃的交渉の発生頻度が低いことが示された。加えて、少数の例ではあるが両種の個体間でのグルーミングが観察された。両種は河岸での睡眠により対捕食者戦略を軽減していることが指摘されているが、同所的に出現することでその効果を増大させている可能性が示唆された。