霊長類研究 Supplement
第40回日本霊長類学会大会
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ポスター発表
豪雪を伴う極端気象はニホンザルの生息地利用を最も強く制約する:他の在来哺乳類との空間ニッチの比較から
江成 広斗江成 はるか関口 達仁田中 元久鈴木 総介
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 80

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抄録
気候変動は、平均気温の上昇につながる温暖化をもたらすだけでなく、豪雪を伴う大寒波をはじめとした極端気象の頻度や規模を増加させ、野生動物の生存に影響する新たな保全上の懸念になりうる。そこで、極端な豪雪イベントがニホンザルの生息地利用にもたらす影響を明らかにするために、多雪帯に広く分布する7種の在来哺乳類(ニホンザル、イノシシ、キツネ、テン、ノウサギ、タヌキ、カモシカ)の空間ニッチを比較した。空間ニッチの評価に用いる各種の在情報(presence data)として、豪雪年を含む2015年から2020年にかけて、東北各地の山々(十和田・朝日・飯豊山系)を山スキーにより踏査し(総距離1,144 km)、そこで観察された雪上の足跡を記録した。これらの種の在情報(目的変数)と、地形・気象・土地利用・森林タイプなどの環境条件(説明変数)を用いて、異なる複数の多変量解析(GAM、Maxent、Random Forest)を実施し、各種の空間ニッチを推定した。その結果、①相対的に体サイズが小さい哺乳類(テン・ノウサギ・ニホンザル)は例年と異なる豪雪に見舞われてもニッチシフトを積極的に行わないこと、②樹皮や冬芽を冬季主食とする哺乳類(カモシカ・ノウサギ・ニホンザル)は、豪雪が降ると、食物の多くが雪に埋まるため、利用できる生息環境(ニッチ幅)が著しく制約を受けること、が明らかになった。このことから、豪雪を伴う極端気象時において、「体サイズ」と「食性」が空間ニッチを決定する要因になり、ニホンザルが生息地利用を最も制約される哺乳類種である可能性が示唆された。
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