抄録
京都市動物園では、2008年から1個体のシロテテナガザルがタッチモニターを使った認知課題に参加していた。課題は画面に表示されるアラビア数字を昇順に触れていく課題で、2020年5月まで、この個体は継続的に課題に参加し、1から8までの数字の順序を習得していた。2020年4月から新型コロナ感染症の感染防止措置としてテナガザルの展示エリアに制限が設けられ、制限区域内で行っていた認知課題も中断した。コロナ禍の期間も2021年5月と9月に、2週間程度の期間だけ、課題を覚えていることを確認するために実験を実施したが、2021年9月以降2024年3月まで課題を中止しており、その間にテナガザルはタッチモニターを触る機会も見る機会もなかった。2024年2月にそれまで長く同居していたメス個体が死亡して単独飼育になったことから、環境エンリッチメントの意義も含めて、実験を再開した。2024年3月11日、約2年半ぶりにタッチモニターを提示したところ、ほとんど迷うことなく、画面上に提示された白い円(スタート刺激)に触れた。その後画面に触れることはなかったが、約2分半後に数字の1に触れた。その間に画面の数字以外の部分を試行錯誤的に触ることなかった。その後の試行ではほとんど時間を空けることなく、スタート刺激、数字の順で触れることができた。提示する数字を徐々に増やし、最終的に1から6まで正しい順序で数字に触れることができた。それ以降、計9回実験を実施し、1個から7個まで、様々な系列長(数字の個数)の条件で実験したが、いずれの条件でも悪くとも50%以上の正解率を示し、以前に学習した数字の順序を記憶していたことが示唆された。一方、数字が5以上の条件では、それまでに行った試行数に関わらず、途中で自ら課題から離れてしまうことが多く(9回中6回)、以前に達成したレベルの課題でも困難を感じていたことが示唆された。