抄録
霊長類学は、ヒトを含む霊長類を対象とした学際的研究分野である。日本では、世界に先駆けて、1948年に、野生ニホンザルの野外研究が開始された。人付け、個体識別、長期継続観察という独自の方法を用いて、世界を驚かせる成果をあげたのち、世界各地の霊長類にその研究対象を広げていった。初期の霊長類学者が残した未整理の写真や野帳には、霊長類学の科学史的資料価値を有するものが含まれている可能性が高い。これらは、ニホンザルでの血縁による順位継承のメカニズムの解明や、チンパンジーでの単位集団の発見など、日本人霊長類学者の重要な研究成果の過程をたどる、重要な一次資料である。また、彼らが訪れた場所の自然や、人々の生活についての記録は、現在では失われてしまった貴重なものである可能性が高い。われわれは、これら貴重な情報を含む一次資料群をデジタル化して、最終的にはアーカイブを構築し、広く公開することを目指して、各自が保有している資料の整理に取り組んでいる。たとえば、半谷が京都大学生態学研究センター犬山キャンパスで保存している故川村俊蔵(元京都大学教授)の資料は、写真が約13,000点、野帳が約230点で、デジタル化はほぼ完了し、現在、京都大学総合博物館研究資源アーカイブ事業の援助を受けて、公開の準備を進めている。ほかにも、伊沢紘生(元宮城教育大学および帝京科学大学教授)、故西田利貞(元京都大学教授)、故西邨顕達(元同志社大学教授)の資料の寄託を受けている。本発表では、これらの資料のごく一端を紹介して、今後の活用方法について議論する。