抄録
【背景・目的】ニホンザルは分布域拡大や個体数増加に伴い諸種の被害を増加させている地域がある一方、環境省のレッドデータブックで「絶滅のおそれがある地域個体群」に記載される地域もある。個体数管理において群れの将来の個体数を考慮することが望まれるが、そのために必要な出産率や生存率に関する情報は少ない。このような状況下で、一部の地方行政では積極的なカウント調査や捕獲記録の収集を行っている。そこで、本研究では蓄積されている行政データを利用し、生活史パラメータの推定を試みた。さらに、推定値を用いた短期的な群れの個体数の予測精度を検証した。
【方法】行政にデータ蓄積がある、捕獲されている加害群(M群)と保全されている群れ(S群)の2群を対象に解析を行った。行政から性齢構成を持つ8年分のカウントデータと、後者については捕獲記録も提供いただき、スクリーニングを行った。性齢構成を持つ個体群動態モデル(以降、本モデル)を構築し、上記データの最新年度以外を用いて、生活史パラメータをベイズ推定した。その推定値と本モデルを用いて、確率論的シミュレーションから、群れの個体数の予測を行い、最新年度のデータとの比較を行った。
【結果・考察】スクリーニングにより、S群はすべてのデータを利用することにしたが、M群は捕獲記録の齢査定の精度が悪く最新の4年分のみを利用することにした。ベイズ推定により、すべての生活史パラメータを推定できた。しかし、オス個体は成長すると群れへの移出入を繰り返すが、それを考慮するデータが無いため、本モデル内ではその生存率もしくは残存率のパラメータと移出入の確率は分離できなかった。確率論的シミュレーションから予測された1年後の個体数は最新年度のデータと概ね一致した。 以上より、群れごとの性齢構成を持つ行政データを用いて、生活史パラメータの推定と短期的な群れの将来予測ができると示唆された。