抄録
マカクザルは霊長類の脳機能を解明するうえで重要な役割を果たしてきた。このような研究においては,サルを飼育ケージから出し,専用のモンキーチェアに乗せた状態で課題を実施する必要がある。しかし,ケージからサルを出し入れする際には,実験者とサルとの距離が近くならざるをえず,十分に関係性を築けていない場合やサルがパニックに陥った場合には,咬傷事故のリスクが高まる。したがって,安全にトレーニングを行うためには,こうしたリスクを低減することが重要な課題となる。そこで本研究では,ケージからチェアへの移動を安全に行うための新たなモンキーチェアを開発し,実際にサルを安全にチェアに乗せることができるかを検証した。まず,飼育ケージと連結可能であり,ケージとチェアの間をサルが自由に移動できる構造のモンキーチェアを作製した。また,チェアの高さを飼育ケージに合わせて調整できるよう,チェアを移動式昇降機に載せ,柔軟に位置を変えられる設計にした。次に,これまでトレーニングを受けていなかった2頭のアカゲザル(Macaca mulatta)に対し,チェアに乗るためのトレーニングを開始した。チェアに自発的に乗るよう促すため,強化子としてレーズン,種子,リンゴを与えたところ,サルは次第にチェア内に長時間滞在するようになった。最終的に,2頭ともチェア内で落ち着いて過ごせるようになった。さらに,本手法は,すでに他の手法でチェアに乗れるようになっているサルに対しても応用可能であることを確認した。本手法を導入することで,サルの扱いに不慣れな実験者であっても安全にチェアに乗せることが可能となり,トレーニング時におけるサルのストレスも軽減できると考えられる。