抄録
霊長類は魅力的な食物パッチを求めて遊動し,その食物パッチ選択は食物の栄養価のみならず採食速度や順位,体格差等様々な要因と関連していることがわかっている。ニホンザルの食物パッチ選択に関する一連の研究は,人為的介入がない自然群で行われてきたが,農作物を利用する群れ(加害群)はいまや国内に広く分布しており,そうした群れの食物パッチ選択に関する研究は被害管理の観点からも重要である。Ebihara & Takatsuki(2021)は,ニホンザル加害群が林縁部を頻繁に利用していることを示唆したが,具体的な採食品目やその栄養学的側面は明らかにされていない。発表者は加害群の中でも一部の個体のみが農地を利用していることを報告したが(清野,2018),林縁部と農地のそれぞれの食物パッチを選択することで,加害群は群れとしてのまとまりを維持していると考えられる。そこで本研究では,林縁部と農地及びその周辺でニホンザルが採食した主要な食物の成分分析と,公開されている食品標準成分表のデータから,農作物を含む林縁部の食物パッチの栄養学的評価を行った。5m2以内に同一の作物が集中分布している場所を農作物の食物パッチとして,自生する植物の食物パッチも含む環境の中で,加害群内の性年齢による食物選択の違いと栄養学的な質との関係を明らかにした。また,農作物の食物パッチは電気柵などの物理柵や追い払いによる防御があるなど,パッチ選択を阻害する要因も含まれるため,そうした要因も考慮した。調査地は兵庫県丹波篠山市で,丹波篠山C群を対象とした。予備調査を2017年7月から12月に行い,2025年5月と6月に直接観察法を用いてニホンザルの採食行動データを収集した。