抄録
樹上性である霊長類は様々な他の樹上性動物と,採食やねぐらなど,様々な状況で,競合的に相互作用をしている。中南米では,ヨザルを除くすべての霊長類が昼行性なので,種間相互作用は基本的に日中に見られる。ところが興味深いことに,ブラジル北東部に生息するコモンマーモセットが,夜行性有袋類であるシロミミオポッサムと相互作用する例が見つかっている。コモンマーモセットは発達した下顎の切歯により樹皮をガウジングし,時間をおいて再び空けた穴を訪れて,滲出したガムを摂食する。このとき,コモンマーモセットが寝ている夜間に,シロミミオポッサムがこのガム穴を訪れ,摂食することがある。シロミミオポッサムはガウジングすることができないので,コモンマーモセットにとっては時間を超えてシロミミオポッサムにガムという資源を一方的に奪われたことになる。私たちは,行動面だけでなく,消化生理の観点からもこのガム食を介した種間相互作用に注目した。ガムの栄養は高度に濃縮されたプロテオグリカンであり,難消化性の食物繊維である。コモンマーモセットは発達した盲腸に複数種の特異なビフィズス菌を共生させており,ビフィズス菌のはたらきでプロテオグリカンを消化できるとされている。本研究では,ペルナンブコ連邦農村大学のタパクラ研究林(大西洋岸森林)で,コモンマーモセットとシロミミオポッサムの腸内細菌の組成を,16S rRNA解析によって調べた。その結果,シロミミオポッサムの盲腸からも,コモンマーモセットと同系統のビフィズス菌を検出した。つまり同所的に生息するコモンマーモセットとシロミミオポッサムは,時間を超えて腸内細菌を介した相互作用もしている可能性がある。今後,異なる森林圏や,異なる季節での収集や,カメラトラップによる行動観察を通じて,この種間相互作用について詳細な分析を進めていく。