抄録
動物組織の炭素安定同位体(以下δ13C)値および窒素安定同位体(以下δ15N)値の比から,対象動物種の食性の評価が可能である。δ13C値からはC3植物とC4植物およびCAM植物の利用割合の推定,またδ15N値からは食物連鎖における栄養段階の推定が可能である。今回,野生ニホンザルを試料とし,炭素・窒素安定同位体分析によって食性の地域差,性差,捕殺年による差の分析を行った。試料には福島県および宮城県で頭数調整のため害獣として捕殺されたニホンザル37個体(オス20個体,メス17個体;福島県32個体,宮城県5個体;2016年10~11月捕殺4個体,2022年11月~2023年1月捕殺33個体)を用い,各個体の脛骨骨幹部の緻密質から通法に従ってコラーゲンを抽出した。分析には元素分析/同位体比質量分析計(EA/IRMS)を利用した。分析結果は,δ13C値が-23.4‰~-19.0‰,δ15N値が-0.1‰~5.5‰であり,C3植物を主に食し、C4植物,動物や海洋生物などはほぼ利用しないことを示す結果となった。ニホンザルは雑食性であり多様な食物を利用するが,本研究の対象群は福島第一原発事故の避難地域に生息していたものであるが,木本植物の果実を主要な食物としていることが明らかとなった。地域差はδ13C値にはみられなかったが,δ15N値は宮城県の個体と比較して,福島県の個体の方が高かった。性差はδ13C値にはみられなかったが,δ15N値はメス個体の方が高かった。捕殺年による差はδ15N値,δ13C値ともにみられなかった。今後,さらに対象となる野生ニホンザルの属性を拡大し,他方面からの解析を行う予定である。