抄録
社会性のある霊長類は,単独よりも複数頭で飼育することが望ましいとされている。Wojciechowski(2004)が行ったオナガザル科4種の混合展示の研究では,異種間のポジティブな相互交渉が時間とともに増加したことが報告されている。本研究では,食性や夜行性といった生活様式が類似しているショウガラゴ(Galago senegalensis)とレッサースローロリス(Nycticebus pygmaeus)を対象に,活動時間配分と場所利用を比較し,2種の間に社会交渉が生じているかを検討した。京都市動物園でショウガラゴ2頭,レッサースローロリス1頭の組み合わせで混合展示されている2集団を対象に観察を行った。2024年11月から2025年3月にかけて,1頭につき30分間の個体追跡を行い,瞬間サンプリング法を用いて1分ごとに活動及び社会交渉を記録した。また,10分ごとのスキャンサンプリングにより,同じ展示室内のすべての個体の場所を記録した。総観察時間は101時間であった。その結果,社会交渉の平均生起率はガラゴで7.0%,ロリスで1.1%となった。10cm以内に座る,接触,毛づくろい,追いかけっこといった社会交渉は,ほとんど同種間(ガラゴ同士)でしか起こらなかった。敵対的交渉は,異種間(ガラゴとロリス)では見られなかった。観察時間全体における近接率は,異種間と比べて同種間において高くなった一方で,採食時には,異種間での近接が比較的頻繁に観察された。各個体の場所の利用割合では,ガラゴとロリスのどちらとも,展示室の床面付近の利用割合は低くなった。両種とも樹上性が高いため,野生下と同じように床面付近をあまり利用しなかったと考えられる。異種間での親和的な社会交渉はほとんど起こらなかったが,採食時に近接した場合でも敵対的な交渉は起こらなかったことから,少なくとも敵対的ではない関係であったと考えられる。