抄録
屋久島西部地域の道路(西部林道)を使って1999年から2020年まで,毎年定期的なニホンザルの調査を行った。この地域の個体群の基礎的なパラメーターの年次変化をモニターし,その生態の理解や保全のための基礎資料を得ることが主な目的である。調査は毎年8月に,合計18.4kmの道路上を歩いて行った。この道路は11.8kmの世界遺産地域の保護区と,その外側の保護区外の合計6.7kmからなる。調査中,道路上に出ているサルの群を観察し,道路上から観察できる全ての個体の性・年齢クラスを記録した。分析は,保護区の北側および南側に隣接する保護区外の道路のそれぞれ2区間,保護区内を3等分する北,中央,南の道路の合計5区間に分けて行った。保護区外と保護区内を比較すると,保護区外の方がサルの群れ数,頭数共に,保護区内より発見率が低く,また2001年から2020年まで,減少傾向があった。保護区の内部で比較すると,群れ数,頭数共に,北側の区間で発見率が低かった。また,北側だけで減少傾向があり,中央部,南部では,減少傾向はなかった。出生率との関連が高い0才児/成体メスの比率は,保護区外の南部で低かった。成体オス/成体メスの比率は,保護区外および保護区内の北部でオスが多く,保護区の中央部,南部で低かった。0才児/成体メスの比率は,出産率が極端に低かった1999年から2007年まで,2年周期の振動を繰り返し,その後,明確な振動はなくなった。これはニホンザルのメスの出産間隔が2年以上であり,子どもを産んだ翌年は,出産することが少ないことによる振動だと考えられる。保護区外では,サルの有害鳥獣捕獲が行われていることは,サルの頭数が少ない一因であると考えられる。しかし保護区の中でも,サルの頭数や経年変化は一様ではなく,北部で頭数の減少していることが示唆された。北部では過去の森林の撹乱が少なかったため,森林の遷移が進み,サルの環境収容力が減少しているのかもしれない。