抄録
ニホンザルの無作為な個体群管理は農作物被害の軽減につながりにくいだけでなく,群れの分裂や生態系への影響など,負の側面をもたらすリスクがある。適切な個体群管理を実行するために,農作物を採食する個体とそうでない個体を判別する手法が期待される。近年の研究で,腸内マイクロバイオームがその指標になりうることが指摘された。一方で,地理的要因や季節的要因を考慮した上での腸内マイクロバイオームの変動は十分に明らかにはなっていない。そこで本研究では,系統を山口県由来に統一した上で,獣害ニホンザルと飼育ニホンザルの腸内マイクロバイオームを季節ごとに網羅比較した。獣害サンプルとして,2021年6月から2022年7月までの期間に,山口県内で捕獲された個体から糞便を採取した(n=45)。飼育サンプルとしては,2021年10月から2022年9月までの期間に,山口県のときわ動物園で飼育されている山口県由来の5個体から糞便を採取した(n=110)。細菌のバーコード配列である16S rRNA遺伝子をPCR増幅し,イルミナシークエンサーによって配列を網羅決定して,細菌組成を調べた。その結果,全ての季節で獣害群と飼育群の間に腸内マイクロバイオームの違いがみられた。さらに獣害群では夏において加害レベルごとにも腸内マイクロバイオームに違いがみられ,ペクチンや果糖の分解に関与していることが示唆されているSuccinivibrionaceae科の細菌が加害レベルの高い群れで有意に増加した。農作物採食量の違いにより腸内マイクロバイオームが変化した可能性がある。一方,獣害群と飼育群の腸内細菌叢の違いが食性によるという明確な証拠を得ることはできなかった。