抄録
動物園での環境エンリッチメントの推進において,アメリカのNPO法人The Shape of Enrichment, Inc.が果たしてきた役割は大きい。1991年に設立してから現在まで,世界中の動物園をつないでグローバルな活動をおこなってきた。特に,2年に1回開催する国際環境エンリッチメント会議には,世界中の動物園関係者が集まり,たくさんの情報交換がなされてきた。本発表では過去の資料をもとに,国際会議を中心としたこの団体の30年にわたる活動を振り返るとともに,日本人の参加と日本の飼育現場に与えた影響についてまとめた。団体が設立されたのは,動物園に関係する仕事をしていたValerie HareとKaren Worleyが,David Shepherdson博士が講演で語った環境エンリッチメントにおける情報交換の必要性に共鳴したのが始まりである。1993年には,アメリカのワシントンパーク動物園(現在のオレゴン動物園)で第1回国際環境エンリッチメント会議を開催した。その後,連続して同じ大陸で開催しないというルールのもと,2年に1度,世界各地で国際会議を開催した。日本人が初めて参加したのは,1997年に開催された第3回会議で(1998上野),その後,若い研究者を中心に多くの日本人が参加するようになった。1998年には会議の内容を中心にまとめた本が発刊され,これは環境エンリッチメントについてまとめられた初の教科書的な本となった。2019年には京都で第14回会議が開催され,これが日本初の開催となった。しかし,2022年10月に中心的に活動していたValerie Hareが亡くなり,その後の国際会議の開催は予定されていない。2005年の第7回会議の際に提案された地域分会づくりは(2009落合),SHAPE-Regionalsとして7支部(UK&アイルランド,オーストラリアと周辺諸国,アフリカ,ブラジル,南東ヨーロッパ,スウェーデン,日本)となった。これらの支部では,それぞれの地域や文化に即した中での環境エンリッチメント実践を促進しており,ワークショップなどの活動が継続されている。