抄録
ゴリラの群れは,霊長目の中で争いが少ないと知られる。それを支えているのが,彼らのコミュニケーション能力とチームワークであるといわれている。そんな彼らの能力を人間社会に応用したら,人間社会で起きる社会問題の解決の糸口が得られるのではないかと思い,本研究を始めた。夏,冬,春の休暇を利用して,東京都恩賜上野動物園でゴリラ群(オトナ群:ハオコ,モモコ,トト,以下ハオコとモモコの子:コモモ,モモカ,リキ,スモモ)の観察を行い,彼らの社会維持にかかわると思われる行動を記録した。また,その比較対象としてニホンザル群の同様の行動を観察した。これらを観察する上で特に重視したのは,個体間の関係を形成する行動,食を与えられた時の行動,コミュニケーションの取得方法である。まず,ゴリラ群の観察からわかった点は,ゴリラは喧嘩の仲裁以外でもよく視線を合わせてコミュニケーションをとる点,食を与えられた時仲間と分け合う点,リーダーを中心に幼いスモモを群れ全体で見守り,血縁のないトト,母親のモモコがおんぶしていた点,ハオコの唯一のオスの子,リキにのみドラミングを行い,それをリキが模倣していた点である。次に,ニホンザル群の観察からわかった点は,彼らは視線を交わすことが喧嘩の合図となる点,食を与えられた時争い合う点,これらが起因してか,サル山には体格の良いサルだけが居り,下でサルたちは等間隔にテリトリーを作り過ごしていた点である。これらから,人間社会における電子機器の普及によるゴリラのような対面での交流の減少より誹謗中傷が生まれると思われた点,自己利益を優先しないゴリラの分配精神の不足も土地をめぐる戦争の一因と思われる点,人間の子育てにおいても個人に負担が集中しない環境が,虐待の点でも大切であること,リーダーの育成,そしてその後継から穏便な社会を維持する姿勢の重要さ,これらを意識すれば問題は解決に向かうと考えた。