抄録
音声は森林など視覚的に乏しい環境で有効なコミュニケーション方法であり、群れの凝集性の維持に寄与すると考えられている。ニホンザルで最も発されるクーコールは、コンタクトコールの1種であり、2個体で鳴き交わされることが特徴的である。クーコールの発声頻度については多数の研究が行われており、その個体の活動・周囲の個体数・視覚的条件など様々な要因が影響を与えることが指摘されている。一方でクーコールの鳴き交わしがどのような要因・ペアで生じやすくなるか検討した研究は少ない。個体間距離が影響を及ぼすことが指摘されてはいるが、ペア数の少なさから普遍的な傾向であるのか不明である。また、家系内や家系の最高齢の個体間で鳴き交わされやすいことを指摘する研究もあるが、録音した音声から発声個体を推定するという手法で行われたため、音声から同定しにくい個体が過小評価されている可能性がある。このように、クーコールの鳴き交わしがどのような状況で成立しやすいのか、またどのようなペアで成立しやすいのかは不明な点が多い。そこで、本研究では2024年5月から7月にかけ、2名の観察者がそれぞれの個体を同時に1時間追跡し、記録したクーコールの発声時刻をもとに、発声の同期が生じやすくなる状況、ペアについて検討した。追跡対象としたのは、屋久島の西部低地域に行動圏を持つ1群のオトナメス13個体であり、観察者が携帯したGPSによって位置情報を記録した。対象群はオトナメス8個体と5個体の安定したサブグループ傾向が強く見られ、サブグループ間での同時追跡は行わなかった。分析の結果、個体間距離が鳴き交わしの頻度に影響を及ぼすことが明らかになった。鳴き交わしが生じやすいペアは発声の同期が起きやすい状況とペアの傾向から、鳴き交わしの役割について考察する。