霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
老いてなお遊ぶ―野生チンパンジーにおける社会的遊びの加齢変化
島田 将喜
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 61

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抄録
霊長類において社会的遊びは、毛づくろいと並ぶ親和的な社会行動の一つである。多くの種では未成熟期に高頻度で見られるが、成熟期以降にはその頻度が大きく減少する傾向がある。一方、チンパンジーでは、生涯を通じて社会的遊びが見られることが知られているが、とくに成熟期以降、なかでも老齢期における遊びの特徴やその機能については、未だ十分に解明されていない。本発表では、老齢期(40歳以上)を含む野生チンパンジーの社会的遊びの特徴を報告する。2001年から2018年までマハレ山塊国立公園に生息するM集団を対象として実施された6回の現地調査で得られた行動観察データを分析に用いた。各性年齢カテゴリーの個体について、1分間隔の瞬間サンプリング法によりアクティビティを記録した(総追跡時間: 802.3時間)。社会的遊びが観察された場合には、遊び相手、非接触遊び(追いかけっこやサークル)を含むか否かを記録した。行動割合や非接触遊びの変化、遊び相手の属性に対して、階層ベイズモデルを用いた回帰分析を行った。その結果、オス・メスともにオトナ期から老齢期にかけても社会的遊びが消失せず、平均して観察時間の約1.4%(95%CrI: 0.69~2.13%)が社会的遊びに費やされていた。加齢に伴い、社会的遊びの割合は減少する一方、毛づくろいの割合は増加した。また非接触遊びを含む割合も加齢とともに減少した。さらに老齢オスは、他の性・年齢カテゴリーと比較して、アカンボウやコドモを相手とした遊びの比率が高かった。またオトナメスは、オトナや老齢個体を遊び相手にする傾向が他のカテゴリーに比べて低かった。これらの結果は、加齢に伴う社会的関係の変化を示した先行研究(Rosati et al., 2020)を支持しており、老齢個体が高頻度の毛づくろいだけでなく、若い世代とは遊びを通じて親和的関係性を維持することで、間接的に集団の安定に寄与する「社会的接着剤(social glue)」としての機能を果たしている可能性が示唆される。
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