霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
死亡直前または死亡した集団メンバーに対するニホンザルの反応―勝山集団における4事例
中道 正之山田 一憲
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 62

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抄録
母ザルが死亡した子ザルを持ち運ぶことは多くの霊長類種で報告されているが、成体の死体に対する集団メンバーの反応を記録した研究はわずか45論文に限られている(Minami & Ishikawa, 2023)。私たちは勝山餌付けニホンザル集団(岡山県)で死亡直前または死亡した成体の合計4頭(事例①及び②28歳の第1位オス、③28歳の高位メス、④12歳の第4位オス)に対する集団メンバーの行動を観察することができた。生存中の4頭のそれぞれの毛づくろい及び近接関係を定量的に把握していたので、死亡直前または死亡直後の各個体への集団メンバーの反応が親和関係によって影響を受けたのかどうか、さらに、4頭の身体状況(ウジの有無など)が集団メンバーの行動に影響したのかどうかを検討した。事例①、②、③の3個体は28歳の高齢のために痩せる、不安定な歩行などの老化の兆候がすでに顕著であった。どの個体も咬まれ傷などにウジが発生し、それと同時に、それまで親和関係のあった個体も含めて、これらの3頭と関わらなくなった。但し、事例①のウジの発生した第1位オスに対して、最頻毛づくろい相手であった第1位メスだけが毛づくろいし、ウジも手でつまみ、食べていた。事例②のオスの死体のそばに留まっていた3頭のオトナメスと1頭の2歳メスは、死体への接触はなかったが、このオスと毛づくろい関係のある個体であった。事例④のオスの死体(外傷、ウジなし)が発見されたとき(12月初旬)、周囲5m以内には成体メス7頭、成体オス3頭、未成体3頭が休息しており、どの個体も死体を避けるような行動を示さなかった。このオスの最頻毛づくろい相手であったオトナメスの娘(2歳)が死体に毛づくろいすることもあった。以上から、ニホンザルはウジがわいた死亡直前または死亡した個体を避けるが、親しかった個体の中には、死体の近くに留まる場合もあるといえる。
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