霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
ミャンマー中部における後期中新世の植生変化とホミノイドの絶滅
高井 正成平田 和葉タウン・タイジン・マウン・マウン・テイン
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 75

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抄録
現在の東南アジア大陸部には,小型ホミノイドであるテナガザルとオナガザル科のサルしか生息していないが,化石記録からは複数の中期中新世から更新世前半にインド北西部から中国南部に渡る広範囲にオランウータン亜科の大型ホミノイドが生息したことがわかっている。本研究では,後期中新世から鮮新世にかけてミャンマー中部において生じた霊長類相の変化の原因を,歯のエナメル質の安定同位体比分析による植生復元から検討した。ミャンマー中部のイラワジ川流域に分布するイラワジ層は,中期中新世末から前期更新世の陸棲動物化石を大量に産出することで知られている。旧霊長類研究所の調査隊は,イラワジ層の4つの異なる層準を対象に古生物的調査を行い,霊長類を含む陸棲動物化石を収集してきた。特に約850万年前のテビンガン地域では,複数種の大型ホミノイド化石を発見し,現在記載作業を進めている。しかし,約600万年前のチャインザウック地域と約260万年前のグウェビン地域ではコロブス類しか見つからないことから,この地域では700万年前頃にホミノイドは絶滅したと考えられる。後期中新世の中頃に大型ホミノイド類は絶滅してしまったと考えられる。この絶滅原因を考えるために,イラワジ層から見つかる様々な動物の歯化石のエナメル質から炭素(13C)と酸素(18O)の安定同位体を採取し,各動物群が湿潤・森林性のC3植物と乾燥・草原性のC4植物のどちらを主に摂取していたのかを推定した。その結果,テビンガン相とチャインザウック相の年代間に,森林性の環境から森林と草原が混在する環境に急速に変化した可能性が強いことがわかった。モンスーン気候が強化による乾燥化が進み草原が拡大したことにより,森林性の大型ホミノイドの生息環境が縮小して絶滅に至ったのだと考えられる。
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