霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
上高地におけるニホンザル(Macaca fuscata)と公園利用者の潜在的遭遇リスク評価
大谷 洋介土橋 彩加福井 弘道杉田 暁松本 卓也
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 76-77

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抄録
自然公園においては野生動物保全と観光産業の双方を持続させることが求められるが、このためには単なる衝突回避に留まらず社会–生態システム(Social–Ecological Systems)の枠組みで共存関係を構築する必要がある。上高地は年間150万人以上が訪れる中部山岳国立公園の中核的観光地であると同時に、ニホンザル(Macaca fuscata)が頻繁に出没することが知られている。2022年施行の自然公園法では国立公園等における野生動物への餌付け等が禁止されたものの、依然として多くの自然公園で餌付けや過度な近接が問題となっている。上高地においても同様の行為が見られ、相互に被害をもたらすリスクが顕在化している。広大な管理区域を巡視し、追い払い・注意喚起を行う作業は公園管理者にとって多大な労力負担であり、より精緻なリスク評価による対策手法の効率化が求められている。本研究は上高地における公園利用者とニホンザルの遭遇リスクを可視化し、重点対策区域を定量的に抽出することを目的とした。携帯電話利用状況データ(2023, 2024年4-11月)から推定した広域人流データを、トレイルカメラによる通行量カウント(2024年10月: 遊歩道沿い10箇所に設置)で補正し、公園利用者の空間分布を示した。また、ニホンザル3集団の直接追跡データ(2023–2024年: 延べ50日・88時間)から遊歩道近傍での出現分布をKernel密度推定により示した。公園利用者およびニホンザルの空間分布を重ねることで両者の遭遇リスクを定量化した結果、ゾーニング区域のうち散策エリアでの遭遇リスクが最も高いという結果を得た。このエリアはホテル等の施設が集中し平坦かつ整備された遊歩道が続く区間に相当する。本研究で作成した遭遇リスクマップは、管理資源を重点配分することでコンフリクト低減施策の費用対効果を向上させうるものである。
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