抄録
環境省が示す令和6年度「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン」(ニホンザル編)改定版によると,九州地方に生息するニホンザルの分布は17の地域に整理され,そのうち絶滅が危惧されている要配慮地域(地域個体群)は15地域で示されている。しかし ,一部の地域を除き情報が古く不明な点が多い。特に九州北部および中部地方の分布は,現在も情報収集されていない地域があるため,保全・管理すべき地域を整理することができていない。日本霊長類学会2019年大会の自由集会報告では,九州北部地方の情報不足は保全管理上,問題であることが指摘されている。報告者らは,2024年4月から5月に,九州北部および中部地方の行政機関(6県61市町村)および動物園,博物館にアンケート調査と電話による聞き取りを実施し,群れの生息情報を収集した。その後,データの精度をより正確なものにするため2024年6月および10月にそれぞれ1週間,現地調査を行った。現地調査では,合計61の市町村で132のルートを踏査し,サルの生息情報(群れの目視,痕跡の確認等)を収集するとともに,地域住民に聞き取りを実施した。その結果, ガイドラインで示された17の生息地域のうち5地域で分布拡大が認められた。一方で,群れの生息が消滅した地域が確認された。消滅した地域の一部では,元々群れの生息が無いものも含まれていた。これは過去のアンケート調査で,市町村が群れの生息について誤って報告した情報であることが確認された。環境省ガイドラインの9つの要配慮地域について情報修正が必要であることが示された。分布拡大による被害の増加拡大も心配されている。一方で要配慮地域に指定されていない地域において分布の縮小が認められた。今後,無計画な捕獲が進むと地域絶滅が起こる可能性がある。分布情報の修正と要配慮地域の見直しは急務である。