霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
ボノボの進化をめぐる諸仮説の検討:性的受容期延長仮説を中心として
古市 剛史
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 87

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抄録
ボノボの種分化については、一時的な乾燥期にコンゴ川の上流を左岸に渡ったPan属の共通祖先の小さな個体群が、その後また隔離されることによって起こったという竹元らによる仮説が広く受け入れられている。しかしチンパンジーと大きく異なるボノボの諸特徴の進化については、いまだ定説を得ていない。HareとWranghamは、オスの攻撃性やメスに対する優位性の低下、犬歯サイズと犬歯の性差の縮小、食物分配に対する高い許容性などといったボノボの特徴が家畜化された動物の多くに見られる特徴と似通っているとして、ボノボの諸特徴がSelf-domestication syndromeとして理解されること示した。しかしながらこの説は、そういった特徴のセットがなぜ進化したのかを説明するものではない。Wranghamは、ボノボの祖先が侵入したコンゴ川左岸にはゴリラがおらず、地上性草本の競合相手がいないためメスたちが集まりやすくなり、メスに対するオスの攻撃製が抑制されたとするNo gorilla hypothesisを提唱している。しかしながらこの説には、ゴリラのいない地域に生息するチンパンジーでもメスが強い分散傾向を示すことや、食物競合の低下はボノボ自身の数の増加と飽和により短期間でその効果を失うという問題がある。一方私たちは、ボノボの進化の初期に小さな個体群で進化したメスの性的受容期間の延長が、実効性比の低下によってオス間の競合を緩和するとともにメスの社会的地位を向上させたとするProlonged sexual receptivity hypothesisを提唱している。これについては、ボノボでも優位なオスが排卵日近くに優先的に交尾して高い繁殖成功をあげていることから、繁殖につながらない性的受容期の延長の効果を疑問視する主張もある。しかし戸田や柴田による近年の研究では、ボノボでは全てのオスがほぼ毎日交尾をしていて交尾頻度と順位に相関がないことや、ボノボのオスもチンパンジーと同様の頻度で攻撃的行動を見せるがメスとの性交渉を巡る攻撃頻度が極めて低いことなど、この説を支持する観察結果も得られている。
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