抄録
霊長類のオキシトシン(OT)はLeu8型(ニホンザルなど)とPro8型(マーモセットなど)があるが、酵素免疫測定法(ELISA)を用いたOT測定キットはLeu8型OTを抗原として製造されたものでPro8型の交差反応性は明らかになっていない。また,OTのELISAはサンプル処理方法によって測定値が大きく違い,得られた測定結果の妥当性に評価が分かれる。そこで本研究では飼育下のニホンザルの尿とマーモセットの唾液と尿を使い,サンプル処理方法を変えてOTのELISAによる測定法の評価を行った。具体的には,ニホンザルは尿を使い,サンプル採取後の処理方法(TFAによる酸性化処理の有無)や,逆相カラム抽出の有無など処理や抽出方法を変えて測定したところ,TFA処理のOT絶対値はカラム抽出の12倍,無処理尿は16倍になったものの,カラム抽出を行った結果と正の相関関係(R2:0.9-1)があった。また,抗Leu8型OT IgGを使ったELISAキット (Enzo life science社)でのPro8型OTの交差反応を調べたところ,9-10%の交差性があった。今後、Pro8型OTを標準物質に使い、Leu8型OT conjugateとの競合反応によるPro8型OTのELISA系を確立し、マーモセットの唾液や尿中のOTの測定系の有効性を評価する。さらに,生理状態(排卵周期・妊娠・育児)によるOTの変動を調べる。非侵襲的に採取したサンプル(尿・唾液)中のOTの基礎値の検討は,社会行動と抹消OT濃度との関係を研究する上での指標となる。