抄録
病原性腸管寄生アメーバである赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)は、従来、霊長類に広く感染すると考えられてきたが、演者らはマカク属のサル類から検出されるのは赤痢アメーバとは別種のE. nuttalliであることを報告している。しかし、赤痢アメーバやE. nuttalliがヒトとマカクの両方を自然宿主とし、ヒトとマカク間で相互に伝播するのかについては明らかになっていない。また、Entamoeba属には赤痢アメーバと形態的に鑑別困難なE. disparやE. moshkovskiiも存在し、さらに、マカクには高頻度にE. chattoniや大腸アメーバ(E. coli)の感染がみられる。本研究では、ヒトとマカクが密接して生活している地域に着目し、Entamoeba属虫体のヒトとマカク間における伝播の可能性について検討した。タイ最南端のナラティワート州において、住民と飼育下のミナミブタオザル (Mn) およびカニクイザル (Mf) の糞便検体を採取した。PCR法によって、Entamoeba属各種の感染状況を明らかにすると共に、赤痢アメーバやE. nuttalliについて、tRNA関連反復配列 (locus D-A) の多型解析を行った。2011年の調査では、住民93、Mn 122、Mf 20個体において、赤痢アメーバ陽性数は住民で2 (2%)、Mnで7 (6%)、E. nuttalli陽性はMnで8 (7%)であった。赤痢アメーバのlocus D-AはMnで5タイプみられたが、住民由来のタイプとは異なっていた。2020年の調査では、住民72、 Mn 81、Mf 25個体において、赤痢アメーバ陽性数は住民で3 (4%)、Mnで2 (3%)、Mfで1 (4%)、E. nuttalliは検出されなかった。赤痢アメーバのlocus D-Aは住民で2タイプみられ、そのうちの1タイプはMn由来と同一であったことから、マカクからヒトへの伝播が示唆された。E. disparについても、ヒトとマカクから共通の遺伝子型が検出された。一方で、E. nuttalliのヒト感染は確認されなかった。Entamoeba種により異種霊長類間での伝播のしやすさに違いがあると考えられる。