抄録
動物園などで動物を観察することは,動物の保全意識を高める可能性がある一方で,ペットとして飼いたいという意向を高める可能性も指摘されている。本研究では,ショウガラゴとヘルマンリクガメの写真を用いて,動物の印象およびペット飼育意向・保全への寄付意向が,写真の背景によってどう変化するかを調査した。2,520人(18歳以上)を対象にオンラインアンケートを実施した。6種類の背景【白い背景・人工的な状況(ケージや水槽)・自然な状況(樹上や草むら)・教育場面(子どもの前で人が持っている)・手のひらの上・商店街(商店街で人が持っている)】のいずれかに動物が写った写真(1条件210人)を提示した。回答者は,それぞれの写真に対して「かわいい」「かっこいい」「なつきそう」などの印象評価,およびペットにしたい意向や保全への寄付意向について回答した。印象の違いについては一般化線形モデル(GLM)を用いて,条件間の回答の違いを分析した。また,共分散構造分析(SEM)によって,印象の違いが行動意向(ペット飼育,寄付)に与える影響を検討した。結果,両種ともに写真の背景によってペット飼育意向や保全への寄付意向は変化しなかった。ショウガラゴについては,「教育場面」や「手のひらの上」など人が近くに写っている写真で,「なつきそう」「かわいい」といった肯定的な印象が増え,「気持ち悪い」といった否定的な印象が減少することが明らかとなった。ヘルマンリクガメでも,写真によって印象が変化する傾向は見られたものの,その方向性はショウガラゴと一貫していなかった。さらにSEMの結果から,ペット飼育意向と保全のための寄付意向には,それぞれ異なる印象が影響していることが示された。以上より,動物の印象は背景によって変化し,それがその後の行動意向に影響を与える可能性があること,そして影響は動物種によって異なることが示唆された。