抄録
感情は,人間の意思決定や行動,コミュニケーションにおいて重要であり,コンピュータによる感情認識技術の需要が高まっている。しかしながら,コンピュータが人間の感情を正確に識別し,活用することは依然として困難である。特に,高齢者は加齢や認知症に伴う顔の筋肉の変化や,認知障害などに起因して,若者とは異なる感情表現をすることがある。一方,既存の感情認識に用いられるデータセットは主に若者を対象としているため,高齢者の感情認識はより困難になる。本研究では,デジタルコンテンツ視聴時における日本人高齢者を対象とし,汎用的な情動喚起区間推定手法の開発を目的とする。具体的には,顔の温度情報と顔パーツの位置情報を用いて推定を行っている。本検討では,顔の温度情報における一定時間前との温度の差分(以降,温度変化量と表記する)に関して,時間間隔を0.5秒,1.0秒,1.5秒,2.0秒の4種類のモデルを用いて推定精度の比較を行った。その結果,2.0秒間隔で算出した温度変化量を用いたモデルにおいて,全11名の被験者におけるマクロ平均F値の平均値は,最大となる0.716を示した。また,他のモデルと比較してマクロ平均F値が向上した被験者では,緩やかな温度変化を捉えやすくなった可能性がある。以上の結果から,温度変化量の算出に用いる時間間隔を適切に設定することは,情動喚起区間の推定に有用である可能性が示唆された。