放射線防護分科会会誌
Online ISSN : 2432-6526
Print ISSN : 1345-3246
胸部撮影による実効線量の検討
能登 公也中村 康隆徳倉 正人浅田 恭生鈴木 昇一藤井 茂久
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー

2002 年 14 巻 p. 27-28

詳細
抄録

[目的] 実効線量の概念は、被ばくによる確率的影響のリスクを、全身すなわちすべての臓器・組織の等価線量の総和で考えている。しかし、一般撮影による被ばくは不均等被ばくである。さらに線量評価は入射表面線量(最大点)で行われている。今回、胸部撮影における実効線量の評価について検討した。[方法] 1.トレーサビリティーのとれた電離箱線量計(RADCAL Model9015 6cc 指頭型)によりTLD(KYOKKO MSO-S)素子を使用管電圧125kV(40.05keV)で校正した。2.人体等価ファントム(ARDERSON RAND Phantom)内、前後体表面にTLD素子(180本)を装着した。3.管電圧 125kV 管電流 200mA 撮影時間 0.1sec SID200cm 照射野サイズ 14×14inch 後前位方向の撮影条件で20回照射を行った。同様の実験を3回実施した。4.測定値から各臓器の等価線量を求め、実効線量を推定した。5.電離箱線量計を用いて入射表面線量を求め、不均等被ばく評価法により実効線量を算出しTLDにより求めた値と比較した。[結果] 1照射野中心部における入射表面から射出面までの距離と線量の関係を図1に示した。肺野内、縦隔部の線量はともにほぼ直線的に減少し、入射表面側に対し、中心部で約1/2、射出面倒で約1/10となった。この関係は、肺尖部、肺下部でも同じであった。[figure]第3頚椎からの距離と肺野中心部の線量の関係を図2に示した。肺尖部から肺下部において、肺野中心部線量は左右の肺ともに平均0.06mGyとなり、肺の吸収線量の代表値とした。同様に他の臓器の吸収線量を決定した。臓器・組織の組織荷重係数は胸部撮影に含まれる割合を考慮し決定した。実効線量は0.0145mSvとなった。乳房を含めた女性の実効線量は0.0150mSvとなり、男性の場合とほぼ同じであった。表1に計算値と測定値における実効線量の比較を示した。入射表面線量に対し、実効線量は約1/10となった。また、TLDにより測定した実効線量は不均等被ばく評価法により計算した値の約1/3となった。[figure]【表.1計算値と測定値による実効線量の比較】[table]1)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する通知別紙3(平成12年10月23日) 2)ICRP Pub 60 1990年勧告[まとめ]1.胸部撮影において実効線量[Sv]は入射表面線量[Gy]の約1/10となった。2.TLDにより測定した実効線量と不均等被ばく評価法により求めた実効線量では、後者が大きな値を示した。これは、胸部に含まれる臓器・組織の等価線量、組織荷重係数の評価によるものと考えられた。3.一般撮影での実効線量の評価はリスクの推定において有用であることが確認できた。

著者関連情報
© 2002 公益社団法人日本放射線技術学会
前の記事 次の記事
feedback
Top