平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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2 公害事件としての福島原発事故—被害総体の可視化から賠償,復興政策の見直しへ
除本 理史
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2021 年 57 巻 p. 31-55

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抄録

2011年3月の福島原発事故によって、大量の放射性物質が飛散し、深刻な環境汚染が生じた。地域丸ごとの避難は9町村に及び、役場機能が他の自治体に移転された。こうした大規模な避難は、地域社会に大きな打撃を与え、広い範囲で社会経済的機能が麻痺した。福島原発事故では、健康被害は「ただちに」生じないものとされる。それに代わり、大規模な避難による人びとの暮らしや地域社会の破壊が被害の前面に出る。しかし、奪われたものの総体、つまり日々の暮らしを成り立たせている条件を、全体として可視化するのは容易ではない。不可視化されやすい被害を意識的に明らかにしていくことが重要である。

福島原発事故は、単なる自然災害ではなく人災であり、公害事件という側面をもっている。本稿ではこの点について「環境正義」論の視点からの既往研究などを踏まえつつ論じる。また本稿では、戦後日本の公害研究の成果を踏まえつつ、事故被害の総体を捉えるために、「ふるさとの喪失(または剥奪)」という視点を提示する。

みえにくい被害を可視化するには、集団訴訟などの被害者運動が重要な意味をもつ。集団訴訟の原告たちは、国や東京電力の責任を追及するとともに、賠償や環境の原状回復を求めている。また、復興政策のあり方を転換していくことも目標とされている。そこで本稿では、賠償、復興政策の問題点について述べるとともに、それらの見直しを求める被害者の取り組みを概観したい。

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