平和研究
Online ISSN : 2436-1054
投稿原稿・研究ノート(特集)
2 加害者としての元子ども兵への正義の追求:オングウェン事件と元子ども兵の「被害者」性の評価
小阪 真也
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2023 年 59 巻 p. 75-90

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抄録

本稿は、2021年に国際刑事裁判所(ICC)の第一審で有罪判決を受けた元子ども兵であるオングウェン被告に対し、何がICCで刑事責任の追及を正当化する論理とされているのかを論考する。

本稿はまず18歳未満の子ども兵が不処罰の対象とされる背景として、強制的に紛争に動員される子ども兵の保護を企図した国際規範の発展が存在することを指摘する。オングウェン事件に関しても「加害者であり被害者」という子ども兵の性質からICCを通じた応報的な正義の追求が批判されている。しかし本稿は、このような批判が子ども兵の性質を実際には形式的に捉えていると指摘する。本稿は、子ども兵が「被害者であり加害者」という性格を常に平等に有するわけではなく、個々人で異なる武装勢力での地位や戦闘行為中の役割を踏まえた評価を考える必要があると述べる。

本稿はICCにおける元子ども兵への責任追及の正当化が「国際刑事裁判所に関するローマ規程」第31条(d)の「強要」の法理を媒介として行われていると指摘する。すなわち、オングウェン被告の「被害者」性に基づく不処罰の妥当性は、人権侵害を「強要」ではなく主導したことで否定され、同被告への刑事責任の追及が正当化されたと論じる。本稿は、子ども兵としての過去を持っていたとしてもなお応報的な正義が追求される加害者として評価される余地があることをオングウェン事件判決は示唆しているのではないかと述べる。

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