2023 年 60 巻 p. 125-150
人道開発支援者による支援対象者に対する性的搾取・虐待(Sexual Exploitation and Abuse :SEA)は、2002年に国連職員を含めた支援者による多数の西アフリカの児童のSEA被害が報道されたことをきっかけとして、国際的な対策が進められてきた。国連事務総長告示(2003年)では、性的搾取・虐待からの保護(Protection from Sexual Exploitation and Abuse(PSEA))に関する特別な措置について明記され、SEA対策が強化された。しかしながら、現在もSEA問題は解決しておらず、PSEAは形骸化している。本稿の目的は、2002年から20年以上もPSEAが実施されているにもかかわらず、なぜ人道開発支援者によるSEAの加害が絶えないのか、その構造的な要因を、文献調査および筆者による支援関係者および受益者へのインタビュー調査結果の分析によって、検討することであった。本稿での分析を経て明らかになったことは、SEAの被害者および被害に遭うリスクの高い被援助国の女性・子どもなど当事者の意思が十分に尊重されないまま、むしろ、支援団体の組織としての名声の維持のためにPSEAが行われてきた状況が確認された。今後、PSEAが形骸化せずに、SEAを予防し、SEA被害者/サバイバーの回復を支えるという、本来的な機能をはたしていくためには、人道開発支援団体が、パターナリスティックな性質から脱却し、パターナリズムと関連する独善性・男尊女卑・人種差別といった問題を克服することが必要である。