霊長類研究
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ヒトの腕渡り動作における喉頭動態と筋活動様式
岡 秀郎岡田 守彦木村 賛葉山 杉夫
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1996 年 12 巻 2 号 p. 207-220

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抄録

サル類の樹上運動への最高の適応としての腕渡り動作を取り上げ,喉頭腔を特殊化しなかったヒトの動作時の喉頭動態について,新たに開発された高解像度内視鏡ビデオシステムを用い,直接,喉頭の動態を観察すると共に,動作ならびに筋の作用機序の面から喉頭括約作用の動作への関与について検討した。
腕渡り動作時,被験者の経験している運動形態の差異により,喉頭動態ならびに上肢・上肢帯筋群の活動様式に差異が認められた。喉頭動態に関しては,二次元平面運動(柔道・剣道)経験者では喉頭閉鎖が観察されたが,三次元空間運動(体操)経験者では喉頭は終始開放されていた。筋活動様式に関しては,二次元平面運動経験者の場合,右手懸垂スイング時に上腕骨の内転動作に参画していると考えられる,三角筋前部,大胸筋胸肋部に顕著な放電の出現・増大が観察され,これらの放電の増大時に喉頭括約が認められた。
二次元平面運動経験者の場合,内転動作時に運動支援として胸郭の固定が必要となり,胸腔内圧をあげるための喉頭括約作用が要求されるようになったものと考えられる。一方,三次元空間運動経験者の場合,同時期,三角筋前部,大胸筋胸肋部の顕著な放電の出現は観察されず,喉頭括約は認められなかった。また,二次元平面運動経験者でも右手懸垂スイング時,三角筋前部の放電は減少傾向を示し,大胸筋胸肋部に顕著な放電の減少が認められた場合,喉頭括約は認められなかった。
これらのことから,肩関節への負荷状態により,運動支援としての胸郭の固定が必要となり,胸腔内圧をあげるための喉頭括約作用が要求されるようになったものと考えられ,ヒトの動作と喉頭括約作用との関係について,肩関節への負荷量の状態に起因する運動支援としての前庭ヒダ・声帯ヒダの関与の存在を強く示唆するものであった。

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