2012 年 19 巻 1 号 p. 32-37
半側空間無視は患者により重症度が異なるほかいくつかの特徴を示す一連の症候群である。その症状の一つに,正面に置いた鏡を通じて物体を提示すると直接つかむことができるが鏡を病巣側に置くと鏡像に注意がとらわれ実物をつかむことができない「鏡失認」がある。鏡失認現象を通じて半側空間無視患者が無視空間をどのようにとらえているかを理解するために,半側空間無視を有する患者における鏡失認の出現率と臨床属性を調査した。さらに鏡失認と半側空間無視の改善のために鏡を利用した治療を行った。対象は当院に入院中で左半側空間無視を認めた右大脳半球損傷患者13例とした。その結果,13例中6例において鏡失認が認められた。特徴として,比較的広範な病巣が多いことと病態失認を合併していることが多いことが挙げられた。鏡を利用した治療では鏡失認を認めた6例中4例で即時的な鏡失認の改善と線分抹消試験での成績の改善が認められた。鏡に対する反応から鏡失認の有無の差は現実の空間と鏡の空間を区別できないことが関連していると思われた。今回の研究結果から考えられる半側空間無視の発現にはその原因が一つではなく,方向性注意障害,表象障害のほか,錯覚など,複数の要因が存在するものと思われた。