抄録
【目的】
我々は第29回本学会で人工膝関節全置換術(以下TKA)後患者を対象に、任意に負荷設定した大腿四頭筋セッティング(以下セッティング)の訓練効果について検討し、個別に運動強度を設定することが炎症のある術後早期での安全性に有効と報告した。今回はセッティングの負荷量の違いによる訓練効果を検証した。
【対象・方法】
平成20年4月から23年2月までに当院でTKAを施行した38名47膝(73.4±5.8歳)を対象とした。アルケア社製簡易下肢筋力測定・訓練器(以下、器械)での測定の結果を基に対象を任意に、セッティングの負荷量を最大押しつけ力の40%とした40%群(73.4±5.3歳、20名25膝)と、60%とした60%群(73.3±6.5歳、18名22膝)に群分けした。器械は任意の負荷設定(量、収縮時間、回数)が可能で、目標の負荷量に達すると音楽が流れる。負荷量は1週より各週の測定値を基に変更した。収縮時間と回数は10秒間、20回、2セットとし、2群とも統一した。検討項目は年齢、体重、等尺性膝伸展最大筋力(以下伸展筋力)、CRPとし、群間で比較した。さらに群間比較における炎症の影響を検討するため、1週のCRPの平均値を基準に高値と低値に分け、各々での伸展筋力を比較した。伸展筋力は術前から4週まで週1回測定し、2回の測定の最大値を用いた。統計学的検討は対応のないt検定を用い、有意水準は5%未満とした。本研究は対象者に研究の趣旨を説明し、同意を得て行った。
【結果】
2群間で年齢、体重、術前筋力、術後CRPには有意差を認めなかった。訓練中全対象において訓練に伴う有害事象の発生はなかった。40%群及び60%群における術後伸展筋力は各々に1週:12.1±3.53、13.8±5.28、2週:17.8±5.29、22.2±7.98、3週:20.3±6.16、24.0±6.52、4週;23.2±6.52、26.3±8.66で、すべての週で60%群が高値で2週では統計学的にも有意であった。CRP高値の40%群と60%群の比較では1週:12.2±3.96、15.7±5.76、2週:18.8±6.37、22.3±11.17、3週:21.0±7.23、24.0±7.57、4週:24.2±7.21、27.1±12.0で60%群が高値であるが有意な差を認めなかった。CRP低値の40%群と60%群の比較では1週:11.9±3.07、13.3±5.16、2週:16.1±2.48、22.5±6.96、3週:18.9±4.20、24.1±6.71、4週:21.5±5.52、25.7±7.92となり、60%群が高値で2週においては有意差を認めた。
【考察・まとめ】
筋力増強訓練の負荷強度は一般的に60%以上が必要と言われている.最大押し付け力の60%のセッティングは40%に比べ、術後2週の伸展筋力の改善に有効であった。統計学的にも有意であった術後早期の訓練効果は炎症が少ない例においての著明な差による可能性が高いと思われた。これらから術後早期は炎症に注目しCRPが高値の場合には、より炎症に配慮した理学療法を行うことが重要と考えられた。