主催: 社団法人日本理学療法士協会 関東甲信越ブロック協議会
【はじめに】
鏡視下肩関節包切離術は難治性の肩関節拘縮に対して可動域拡大や疼痛軽減目的にて施行される.今回同手術後の理学療法を経験し自動可動域の挙上改善に難渋したため,理学療法の紹介及び若干の考察を加えて報告する.
【症例紹介】
59歳の男性.他院にて左肩関節拘縮に対し7ヶ月間保存療法を施行したが,十分な可動域・痛みの改善得られず,鏡視下肩関節包切離術施行(後方のみ温存).術後5週目にリハビリ目的のため当院紹介され受診,当院での理学療法開始.
【結果】
安静時痛+,動作時痛+,夜間痛+,圧痛:棘上筋,棘下筋,肩甲下筋,小円筋,大円筋,関節可動域(他動・単位は°)屈曲100,第1肢位外旋10内旋30,第2肢位外旋25内旋30, 第3肢位内旋0,結帯L5レベル,端坐位にて骨盤後傾位,肩甲骨外転・下方回旋位.
【初回評価】
術後5週:疼痛,筋攣縮強く治療はリラクゼーション中心. 術後4ヶ月:自動屈曲125°他動屈曲150°治療は体幹を含めた肩甲帯へのアプローチ中心.術後6ヶ月:自動屈曲145°.術後9ヶ月:自動屈曲155°.結帯Th10レベル.術後11ヵ月:疼痛なし,日常生活活動問題なし.理学療法終了.
【考察】
関節包は肩甲上腕関節の支持性・安定性に関与しているため,切離後は腱板を中心とした肩関節周囲筋群による動的支持機能の獲得が重要と考えられる.
本症例は初診時,腱板を中心とした肩関節周囲筋に強い攣縮を認めたため初期の運動療法では攣縮筋に対しての反復収縮を用いたリラクゼーションを中心に行った.攣縮の改善と共に最終域での筋のストレッチ,腱板の筋力訓練を追加していき他動での可動域は改善したが,自動挙上の可動域は思うように改善得られなかった.肩甲帯の評価から肩甲骨上方回旋筋群の機能不全により効率的な挙上運動ができない状態であったため,僧帽筋(中部・下部線維)の収縮練習,骨盤前傾位での挙上運動などを取り入れ肩甲骨の上方回旋,内転,下制を引き出した.その結果,自動での挙上可動域の改善に繋がり,術後11ヶ月で理学療法終了となった.
今回自動挙上獲得が遅延した理由は肩甲帯の機能不全があったこと,またそれに対するアプローチが遅かったことが挙げられる.肩甲帯の機能不全から正常な軌跡からは逸脱した関節運動となり,動的には不安定な状態であったと考えられる.複合体としての肩関節機能の重要さを改めて実感した.また鏡視下肩関節包切離術では症例により経過に大きな相違がみられるとの報告もあることから,病態に応じた運動療法の選択・実施が必要と考えられる.