関東甲信越ブロック理学療法士学会
Online ISSN : 2187-123X
Print ISSN : 0916-9946
ISSN-L : 0916-9946
第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 115
会議情報

重度運動感覚障害における治療設定の試み 第2報
木島 隆
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
自己の身体位置関係の認知獲得から身体部位間の関連性、さらに、外部環境と自己との関連性の確立へと順序立てた治療を行うことで随意性に改善を得た経験を昨年の本学会で報告した。今回、被殻出血により運動は保たれているが、随意運動の感覚が消失した症例に対し早期から認知獲得の順序に重点を置いたアプローチを導入し良好な改善が得られたので報告する。
【症例紹介】
50代男性、平成24年1月30日に右被殻出血を呈し保存的治療が進められた。1月31日の検査は、意識はJCSⅡ-10、日内変動があった。脳卒中運動障害重症度スケール(JSS-M)は22.54。Br.stage上肢Ⅲ手指Ⅳ下肢Ⅳで指示に対して動かすことは可能であった。しかし、一般的感覚検査は左上肢・手指・下肢ともに表在・深部感覚とも脱失で、指示に従って随意的に動かした上下肢さえ動かしたことが分からなかった。
【治療仮説】
動作を早期より求めることは脳損傷後の半球間抑制の破綻から非損傷半球の過活動を引き起こし非麻痺側優位の運動を誘発させ、麻痺側不使用の学習を進める可能性があると考えた。症例は自己の運動を自己のものとして認知できておらず、他動の運動や接触も認知できなかったため、自己を認識でき、ある程度認識できる自己で外部の環境と関連性を築く、といった順序立てた認知獲得は後の動作獲得に寄与すると考えた。尚、治療に際し患者及び家族に十分に説明し同意を得た。
【治療・結果】
症例の身体を動かす前に人形を使用して動かす部位・関節を確認してから、閉眼・他動で運動させた。示した関節の動きが理解できてきた後、文脈に沿った筋収縮を徐々に許し自動介助運動へと展開した。麻痺側と非麻痺側の関節および部位の位置関係、変化点などを求め、徐々に外部との関連性へと範囲を広げていった。外部との関連性は足底をどの位置に置いたか・どの軌跡を辿ったかや、どの素材を触ったかなどの識別を臥位-座位-立位と求めた。25病日目に個室での移動・トイレ動作自立。転院時(3月8日)JSS-Mは5.42、感覚はVASで5/10となり、「全く無かった手足が今は付いている感じがします」と内省も得られた。
【考察】
脳損傷の急性期はリスクを管理しつつ廃用を予防し可及的早期に離床を確立することを目的としている。しかし、早期のリハビリテーションは非損傷半球の過活動、麻痺側の不使用の学習を進める可能性があるため、早期はADLの獲得よりも機能の獲得を優先目的としたリハビリテーションが重要と考える。予後予測因子として相関性の高いJSS-Mも低値であったことから早期より認知獲得の順序に重点を置いたアプローチは有効であると考える。

著者関連情報
© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
前の記事 次の記事
feedback
Top