抄録
【目的】
筋萎縮性側索硬化症(以下:ALS)は進行すると呼吸障害のため死に至るが、現在では人工呼吸器の装着により長期療養が可能になった。しかし、人工呼吸器を装着しても全身の筋萎縮は進みコミュニケーションが困難となるケースが存在する。
今回、人工呼吸器装着後にALSが進行し開眼不全を呈した一症例に対し、前頭部のマッサージを行い、改善がみられるかを検討した。
【方法】
本研究は対象者また家族に対しヘルシンキ宣言に基づき研究の趣旨と内容を説明し同意を得ている。
対象は70歳代の女性1名、ALSを発症し気切・人工呼吸器管理を経て計5年が経過している。症例には上眼瞼と眼球以外に随意的に運動を行える箇所はなく、情報伝達手段として視線による直接選択方式の五十音表透明文字盤(以下:透明文字盤)を利用している。主訴は「話をしたい」とのこと。コミュニケーション手段として視線を用いるが、上眼瞼の挙上が行いにくくなっている(以下:開眼不全)。開眼不全ため視線が読み取りにくく、介助者に患者の発する情報が伝わりにくくなっている。
方法として前額部のマッサージ(軽擦法また揉捻法)を(前頭筋の走行に垂直また平行に)行った。施行時間は15分。効果判定はマッサージ実施直前および直後に測定し比較を行った。測定は最大努力で開眼させ、下眼瞼から上眼瞼の直径の最大値を測った。治療と効果判定の頻度は1日1回のペースで週5回、期間は2週間にわたり計10回施行した。
【結果】
結果としてフェイシャルマッサージ実施前の開眼は4.3 ±0.67(単位:mm、平均±標準偏差)、フェイシャルマッサージ実施後の開眼は6.3 ±0.67で、両結果は有意差(p <0.01)がみらた。開眼不全のある本症例に対し、フェイシャルマッサージを施行すると即時的に眼を大きく開けられるようになるという結果を得た。
【考察】
フェイシャルマッサージを行うことで、一時的にでも開眼不全が改善する症例が存在する。つまり、開眼不全を問題とするALS患者様が一時的にでも効果を求める場合、フェイシャルマッサージを試してみる価値があるといえる。
また透明文字盤は文字を伝える最後の手段となってしまうケースを多く経験する。一人でも多くのコミュニケーションを長期的、また円滑にしていくための喚起となれば幸いである。
【まとめ】
開眼不全のあるALS患者にマッサージを施行し効果が得られ、コミュニケーションの円滑となった症例を紹介した。