抄録
【目的】
日常生活動作の中で,排泄動作の自立度は脳卒中片麻痺者の自宅退院に影響する一要因であると言われている.本研究は,排泄時下衣更衣動作能力(以下,下衣更衣動作)に影響を与える要因を明らかにすることである.
【方法】
対象は平成23年11月から平成24年2月の期間に当院回復期リハビリテーション病棟へ入院されていた初発脳卒中片麻痺者37名(男性28名,女性9名).平均年齢および標準偏差は75.3±9.7歳であった.検査内容が理解できない者,検査遂行を阻害するような重篤な整形疾患を有する者は除外した.尚,対象者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た上で検査を実施した.方法は立位での下衣更衣動作を評価した.衣服を下ろす基準は膝窩まで下ろすこととし,衣服を上げる基準は腸骨稜まで上げることとした.動作自立度の判定として動作が介助せずに行えるものを自立群,手を触れる介助が必要なものを非自立群と分類した. 調査項目は,年齢,性別,体重,Functional Assessment for Control of Trunk (以下,FACT),上田式12段階片麻痺機能テスト(以下,麻痺側下肢グレード),Functional Balance Scale(以下,FBS),麻痺側および非麻痺側下肢伸展筋力体重比(最大トルク値を体重で除した値を採用.以下,下肢伸展筋力),Mini Mental State Examination(以下,MMSE)とした.統計処理は,FACT,麻痺側下肢グレード,FBS,麻痺側及び非麻痺側下肢伸展筋力,MMSEについて下衣更衣動作自立群,非自立群の両群間の比較に対応のないt検定を用いた.次に下衣更衣動作自立群,非自立群を従属変数,t検定において両群間に有意差が得られたものを独立変数とし,多重ロジスティック回帰分析を行った.有意水準は5%未満とした.
【結果】
t検定の結果,FACT,麻痺側下肢グレード,FBSで両群間に有意差が認められた. FACT,麻痺側下肢グレード,FBSを独立変数とし多重ロジスティック回帰分析を行った結果,FBSが有意な変数として抽出された.
【考察】
下衣更衣動作は支持基底面を変化させない中で,安定した上下の重心移動を伴う立位バランスが要求される.多重ロジスティック回帰分析でFBSのみが抽出されたことは,下衣更衣動作に立位バランスが重要である事を示唆しているものと考える.
【まとめ】
下衣更衣動作の獲得には立位バランス能力を高めることが必要であると考える.